【東京散歩】摩天楼の足元に眠る「都立文化財9庭園」。歴史を読み解く大人の休日ガイド

教養・カルチャー

はじめに:東京は「庭」の街である

コンクリートジャングルと呼ばれる東京ですが、実は世界でも稀に見る「庭園都市」であることをご存知でしょうか?

江戸時代、大名たちはこぞって屋敷に庭を造り、明治になれば財閥がその美意識を受け継ぎました。 現在、東京都が文化財として指定・管理している「都立9庭園」は、まさに東京の歴史の地層そのものです。

今回は、騒がしい都会のノイズを遮断し、静寂な時間を過ごすための9つの隠れ家を、歴史のストーリーとともに紹介します。


1. 江戸の権力を感じる「大名庭園」の傑作

まずは、徳川将軍家や有力大名が威信をかけて造った、圧倒的スケールの庭園たちです。

浜離宮恩賜庭園(中央区)

  • 歴史: 元々は将軍家の「鴨猟」の場であり、海辺の別荘。明治以降は皇室の離宮となりました。
  • 見どころ: 「潮入の池」。東京湾の海水を引いているため、潮の満ち引きで景色が変わる都内唯一の海水池です。
  • 散歩ガイド: 菜の花やコスモスの時期が有名ですが、おすすめは中島の御茶屋で抹茶を頂くこと。高層ビル群と日本庭園のコントラストは「東京」を象徴する景色です。

六義園(文京区)

  • 歴史: 5代将軍・徳川綱吉の側用人、柳沢吉保が造った庭。彼は和歌に造詣が深く、庭全体で「和歌の世界」を表現しようとしました。
  • 見どころ: 「繊細な計算」。明るく開放的な池と、薄暗い木立のコントラストが意図的に設計されています。
  • 散歩ガイド: 春の枝垂れ桜や秋の紅葉ライトアップは混雑しますが、それ以外の時期の静けさは格別。文庫本を片手にベンチに座るのに最適な場所です。

小石川後楽園(文京区)

  • 歴史: 水戸黄門でおなじみ、水戸徳川家の庭園。明(中国)の儒学者の意見を取り入れたため、中国風の景色が随所に見られます。
  • 見どころ: 「円月橋」。水面に映る形と合わせると満月(円)になるように設計された石橋です。
  • 散歩ガイド: 東京ドームのすぐ裏手とは思えない静寂。梅、桜、花菖蒲、紅葉と、四季折々の表情が最も豊かな庭の一つです。

2. 近代の富豪たちが愛した「モダン庭園」

明治・大正時代、岩崎家(三菱財閥)や古河家などの実業家が造った、和と洋が融合した庭園です。

旧岩崎邸庭園(台東区)

  • 歴史: 三菱財閥3代目・岩崎久弥の本邸。設計は鹿鳴館も手がけたジョサイア・コンドル。
  • 見どころ: 「洋館と和館の連結」。豪華絢爛な洋館の奥に、書院造りの和館が繋がっています。当時の「公」と「私」の使い分けが見て取れます。
  • 散歩ガイド: 洋館内の壁紙や暖炉の装飾は圧巻。建築好きなら一日中いられます。

旧古河庭園(北区)

  • 歴史: 古河財閥の邸宅。小高い丘の上に洋館を建て、斜面に洋風庭園、低地に日本庭園を配置した立体的な造り。
  • 見どころ: 「バラと洋館」。春と秋のバラのシーズンは、まるで英国貴族の邸宅に迷い込んだような景色が広がります。
  • 散歩ガイド: 洋館の中にある喫茶室でお茶ができます。窓からバラ園を見下ろす時間は、最高の貴族気分です。

殿ヶ谷戸庭園(国分寺市)

  • 歴史: 後の満鉄副総裁、江口定條の別荘として整備され、後に岩崎家が所有。国分寺崖線(ハケ)という地形をそのまま活かしています。
  • 見どころ: 「湧き水」。崖の下から湧き出る清流と、武蔵野の自然林。都心とは違う「野趣」あふれる庭です。
  • 散歩ガイド: 秋の紅葉が特に美しい穴場。「次郎弁天の池」の水音を聞いているだけで心が洗われます。

3. 個性が光る「通好み」の庭園

最後は、一風変わった特徴を持つ3つの庭園です。

旧芝離宮恩賜庭園(港区)

  • 歴史: 浜離宮と並ぶ、現存する最も古い大名庭園の一つ。
  • 散歩ガイド: 浜松町駅のすぐ隣。新幹線やモノレールが走る音を聞きながら、江戸の庭園を歩く不思議な体験ができます。コンパクトなので昼休みの散歩に最適。

清澄庭園(江東区)

  • 歴史: 三菱創業者・岩崎弥太郎が、全国から集めた「名石」を配置して完成させた庭。
  • 散歩ガイド: まさに「石の博物館」。池の端に置かれた「磯渡り」という飛び石を歩きながら、景色の変化を楽しめます。

向島百花園(墨田区)

  • 歴史: ここだけは大名でも財閥でもなく、江戸の町人(文化人)たちが「花が咲く庭を造ろう」とお金を出し合って造った庶民の庭。
  • 散歩ガイド: 豪華な石組みなどはありませんが、萩のトンネルなど、季節の草花が素朴に咲き乱れています。文人たちが愛した、粋な「大人の遊び場」です。

まとめ:年間パスポートという「鍵」を持つ

これら9つの庭園、実はすべて回れる「都立9庭園共通年間パスポート(一般4,000円)」というものが存在します。

一回ごとの入園料は数百円ですが、パスポートを持っていれば「ちょっとベンチで本を読みたいから、六義園に入ろう」という使い方ができます。

それはまるで、東京中に9つの「自分の書斎(離れ)」を持つような感覚です。

次の休日は、スマホを置いて、歴史の物語が詰まった庭へ出かけてみませんか?

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