確信犯の意味、9割が誤用?「悪いことだとわかってやる」が間違いである理由と正しい使い分け

教養・カルチャー

「冷蔵庫のプリン、私のってわかってて食べたでしょ! この確信犯め!」

日常会話で、こんなふうに冗談めかして(あるいは本気で)相手を責めたことはありませんか? 「悪いことだとわかっているのに、あえてやる」。 多くの人が、「確信犯」という言葉をこのようなニュアンスで使っています。 テレビのニュースやドラマ、日常会話でも、この使い方が市民権を得てしまっているのが現状です。

しかし、もしあなたが言葉を扱う仕事や、信頼を大切にするビジネスパーソンを目指しているなら、ここで一度立ち止まってください。 実は、その使い方は「誤用」です。

本来の意味での「確信犯」は、単なる「意地悪な人」ではありません。 もっと根深く、もっと厄介で、そして私たち人間の心の闇を映し出す、非常に重たい言葉なのです。

「言葉の意味を知ることは、人間の本質を知ること」

この記事では、「確信犯」という言葉の本来の意味を紐解きながら、なぜ私たちがこの言葉を誤用してしまうのか、そして「正義」と「悪意」の境界線について深く考えていきます。 読み終わる頃には、あなたの言葉の解像度が上がり、苦手なあの人の行動原理が少しだけ理解できるようになっているかもしれません。

「確信犯」と「故意犯」の決定的な違い

まずは、言葉の定義をクリアにしておきましょう。 私たちが普段「確信犯」だと思って使っている「悪いと知りながらやる行為」。 これは、法律用語や本来の日本語では**「故意犯(こいはん)」**と呼びます。

誤用されている「確信犯」(=故意犯)

  • 心理: 「バレなきゃいいや」「自分の利益のためにやろう」
  • 動機: 私利私欲、悪意、愉快犯
  • 例: 万引き、詐欺、置いてある傘を盗む、知人のプリンを食べる

こちらはシンプルです。 「悪いことだ」という自覚(違法性の認識)がありながら、欲望に負けて行動に移すパターンです。 社会的には許されませんが、心理としては理解しやすいものです。

本来の意味の「確信犯」

一方、本来の「確信犯」は全く異なります。

確信犯(かくしんはん) 道徳的、宗教的、あるいは政治的な信念に基づき、「自分の行いは正しい(正義である)」と固く信じて行われる犯罪や行為のこと。

  • 心理: 「これは世の中のために必要なことだ」「神の意志だ」「これが正義だ」
  • 動機: 使命感、信念、良心
  • 例: 政治的テロリズム、宗教的な戒律に基づく違法行為、革命活動

いかがでしょうか。 本来の確信犯には、「悪いことをしている」という自覚が1ミリもありません。 むしろ、「自分は良いことをしている」「世直しをしている」と本気で信じています。 だからこそ、「確信(信念)」を持って行う犯罪、なのです。

プリンの例で言えば、「お腹が空いたから盗み食いした(故意犯)」ではなく、「甘いものを独占するのは資本主義の悪だ。富を再分配するために私が解放(食べる)したのだ(確信犯)」というレベルの思考回路になります。 こう考えると、全然違う言葉だということがわかりますよね。

なぜ「正義」を振りかざす確信犯は恐ろしいのか

「悪いとわかってやる(故意犯)」と「正しいと信じてやる(確信犯)」。 どちらがタチが悪いと思いますか?

一見、悪意がある故意犯の方が悪質に見えます。 しかし、歴史や社会心理学の視点で見ると、圧倒的に「確信犯」の方が恐ろしいのです。

ブレーキの壊れた暴走機関車

故意犯には、良心の呵責があります。 「悪いことだな」という認識があるため、心のどこかにブレーキがかかります。 誰かに見つかれば逃げますし、説得されれば「やっぱりやめよう」と思いとどまる余地があります。

しかし、確信犯にはブレーキがありません。 彼らにとって、その行為は「善」だからです。 「良いことをするのに、なぜためらう必要があるのか?」 そう考えているため、行動は過激化しやすく、周囲がどれだけ止めても聞く耳を持ちません。 彼らにとって、自分を止める人間は「悪」であり「排除すべき敵」になってしまうからです。

現代の確信犯は「SNS」に潜んでいる

「テロリストなんて身近にいないし、関係ない話だ」と思いましたか? いいえ、実は現代社会には、プチ確信犯が溢れかえっています。 その最たる場所が、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)です。

  • 芸能人の不倫スキャンダルに対して、誹謗中傷のリプライを送り続ける人。
  • 「不謹慎だ」と店舗や企業にクレームの電話をかけ続ける「自粛警察」。
  • 自分の価値観と違う意見を、徹底的に論破しようとする人。

彼らの多くは、自分が「荒らし」や「悪人」だとは思っていません。 「間違ったことをしている奴を、正してやっている」 「社会のルールを守らせるために、制裁を加えている」 そう、彼らは自分なりの「正義」という名の確信を持って、石を投げているのです。

匿名という安全圏から、正義の名の元に行われる攻撃。 これこそが、現代における「確信犯」のリアルな姿です。 悪意のある攻撃よりも、正義感に基づいた攻撃の方が、残酷で執拗になりやすい。 「確信犯」という言葉の本来の意味を知ることは、このSNS社会の闇を理解することにも繋がるのです。

ビジネスや人間関係における「確信犯」への対処法

この言葉の違いを理解することは、仕事や人間関係のトラブルを解決する上でも非常に役立ちます。 職場で「困った人」に遭遇した時、その人が「故意犯」なのか「確信犯」なのかを見極めることで、対処法が全く異なるからです。

パターンA:サボり魔の部下(故意犯タイプ)

仕事の手を抜いたり、嘘の報告をしたりする部下。 彼らが「楽をしたい(悪いとわかっている)」という故意犯タイプなら、対策はシンプルです。 「管理とルール」で縛ればいいのです。 チェック体制を厳しくする、評価制度を見直すなど、サボると損をする仕組みを作れば、彼らは計算高いので行動を改めます。

パターンB:暴走するエース(確信犯タイプ)

一方、会社のルールを無視して勝手な営業をしたり、上司の方針に公然と逆らうエース社員。 もし彼が「こっちのやり方の方が、絶対にお客さんのためになる!」と信じている確信犯タイプだとしたら、ルールで縛るのは逆効果です。 彼は自分の正義のために戦っているので、弾圧すればするほど「会社はわかっていない」と燃え上がり、離反します。

このタイプに必要なのは、「対話と価値観の共有」です。 「君の顧客を思う気持ち(正義)は素晴らしい。ただ、会社としてはこういうリスクも考えている」と、相手の正義を認めた上で、別の視点を提示する必要があります。 彼らのエネルギー源は「悪意」ではなく「信念」なので、方向性さえ合えば、最強の味方になる可能性を秘めています。

相手がなぜその行動をとっているのか。 「わかっててやっている(故意)」なのか、「正しいと思ってやっている(確信)」なのか。 ここを見誤ると、人間関係の糸は複雑に絡まってしまいます。

言葉の解像度を上げることは、思考の解像度を上げること

言葉の意味なんて、通じればどっちでもいいじゃないか。 そう思う人もいるかもしれません。 確かに、日常会話で目くじらを立てて「それは誤用だ!」と指摘するのは、ただの無粋な人です(それこそ、知識によるマウンティングという確信犯になりかねません)。

しかし、あなた自身の頭の中では、この2つを明確に区別しておくべきです。 なぜなら、使う言葉の精度は、そのまま思考の精度になるからです。

「あの人は確信犯だ」と一括りにして片付けるのは、思考停止です。 「あの人は、どんな正義(信念)に基づいて行動しているんだろう?」 そう問い直すことで、理解不能だった相手の行動に、一筋の理屈が見えてくることがあります。

言葉を正しく知ることは、単なる知識自慢ではありません。 世界をより多面的に、より深く理解するための「レンズ」を磨くことなのです。

正義の反対は、別の正義かもしれない

「確信犯」という一つの単語から、人間の心理、SNSの炎上、そしてビジネスのマネジメントまで、世界は繋がっています。

私たちが本当に警戒すべきは、わかりやすい悪意を持った「故意犯」だけではありません。 「自分は絶対に正しい」と信じて疑わない、自分自身の心の中に潜む「確信犯」的な思考です。

誰かを批判したくなった時。 自分の意見を押し通したくなった時。 ふと立ち止まって、自分に問いかけてみてください。

「私は今、自分の正義に酔っていないか?」

その冷静な視点を持つことこそが、言葉を知り、言葉を操る私たち人間に必要な知性なのかもしれません。

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